詩と愛

詩と絵のアイデア

28 アウト・オブ・プレイス

道端にペットボトルが転がっている。まだ中身は入っているようで、かすかな振動にちゃぷちゃぷと揺れている。人通りのある往来だ、いずれ誰かが捨てるかもしれないが、もしこれが人里離れた山野であったならいつまでも遺り続けるのだろうか。
折れた道路標識が放置されている。駐車禁止。絡みつく雑草を払って持ち上げてみたところ、思っていたよりも軽い。駐車禁止もこれほど軽いと拍子抜けである。いずれ草に覆い尽くされ、ペンキは剥げ落ち、腐食して、完全に消え去るのかもしれないな。と思っていたら、数日後に新しい駐車禁止の標識が設置された。古い駐車禁止の標識とはそれきりだった。
転がるペットボトルも放置された駐車禁止も、全て人間の手によって作り出されてその場所に存在するのだ。そしてまた、人間の手によってそれらは回収されていき、必要があれば新しいものと入れ替えられてしまう。このアナログな回路が生活空間の根本にあり、これは概ね人間の手に委ねられている。
不慮の事態によりこの回路から抜け出てしまうものがある。忘れられたものたち。そういったものの一部は自然に飲み込まれ、一部は永い時を経て歴史の特異点となった。道端に転がるペットボトルもそのひとつであると、半ば冗談のような仮説に数学的な証明が付与され、人々は狂いに狂った。

 

やがて全てはオーパーツ

 

タイム・カプセルで時を超えよう。
優雅に独り、丸まって。
四次元旅行のお供に'80年代少年誌とインベーダー・ゲームが備え付けられた。電気をどこから取るのか、皆が疑問に思ったが、皆がそれを無視した。最初にカプセルに入った人は恋人に向かってこう言った。"悪いね、このカプセルは独り用なんだ。"

この噂は世界中をセンセーションを伴って駆け巡った。偶然のことながら、カプセルの本質にまっすぐに触れていたから。世界初のタイム・カプセルは間もなく凍結プロセスに移行された。
文明の崩落の後には道端に転がるペットボトルだけが遺るのだろう。人の手の導きから逃れた者たちだ。放棄された、文明の蓄積だ。わずか数百年の後、人々は転がるペットボトルを見て、中身に口を付ける。いやに気の抜けたコーラだ。彼らは忘れてしまった。ただ、口を通して流れ込む遥か彼方の記憶に咽び泣く。
若い母親は幼い子らに言った。情報が氾濫するから、キャップはしっかり締めておいて。幼い子らは言いつけ通りにキャップをしっかりと締めて、彼らが見た地上の、ありとあらゆる場所に中身の揺らぐペットボトルを転がした。